救急科(主に腹部救急疾患を担当します)

腹部救急(急性腹症=きゅうせいふくしょう、acute abdomen)とは、突然発症した腹痛の中で緊急手術を含む迅速な対応を要するおなかの急病のことを指します。緊急手術や緊急内視鏡急などの処置を要する病態であるにも関わらず、後述するような理由で、受け入れられる病院が限られているのが現状です。

なぜ、受け入れられる病院が限られているのか

現在、消化器外科の中心は悪性疾患、いわゆる“癌(がん)”であり、特に大学病院や地域の中核病院ではがん手術をはじめとする定期手術でパンク状態にあります。現在、日本国内の全体の医師数は年々増加傾向にも関わらず、外科医の数は年々減少傾向で、特にこれらの腹部救急疾患の実働担当となる40歳未満の若手外科医数の減少が著明です。このような現状のため、緊急手術を要することの多い急性腹症の救急車が受け入れを断る“たらい回し”や、夜間・土日の手術が制限される問題が生じています。さらに、日本の一般外科・消化器外科医は手術以外にも内視鏡などの検査や抗癌剤などの化学療法、緩和ケアなど様々な仕事があり、多くの外科医が非常に多忙であります。

このような現状に対し、当クリニックでは可能な限り救急の患者さんの初期治療を担当し、迅速な診断と重症度の評価、適切なタイミングで高次医療機関へ紹介すること、急性期の治療が落ち着いた後の療養や経過観察などをお任せ頂くことで近隣の地域中核病院の負担を減らすことができると思っております。

主な腹部救急疾患

非特異的腹痛(原因不明の腹痛)

最も多く、腹痛の原因となる病気の診断がつかないものです。ただ、これは検査や人員の限られた救急外来においてはある程度は仕方ない側面もあり、後日専門的な検査により確定診断されることもあります。吐血などの緊急を除き、救急外来などで即時に内視鏡検査を行う病院は多くはありませんので、いわゆる「ただの胃炎ですね(急性胃腸炎)」などと診断されているのも含まれます。

急性虫垂炎

俗にいう「盲腸(もうちょう)」ですが、医学的には大腸の一部である盲腸のすぐ近くにある「虫垂」が炎症を起こすことで発症します。近年、抗菌薬(抗生剤)の進歩により手術せずに治ることも多いですが、再発の可能性があったり、虫垂が破裂しておなか全体に炎症が波及している(急性汎発性腹膜炎といい生命に関わることもあります)場合は手術が根本的な治療法です。

急性胆嚢炎や胆石発作

胆嚢(たんのう)と呼ばれる臓器に急激に炎症が生じる病気で、多くの場合、胆嚢結石が原因です。 日本腹部救急医学会などが定めた「急性胆のう炎診療ガイドライン」では臓器障害を伴う重症でない場合、早期の手術(胆のう摘出術)が推奨されています。

腸閉塞症(イレウス)

食べ物や腸液の流れが悪くなり、嘔吐や腹痛が出現します。点滴を行いつつ食事を一時的にやめて、腸の内容物を管で吸引して排液するといった保存的加療にて良くなる場合がほとんどです。しかし、中には腸が捻じれたり、絞めつけられたりして腸が血流障害を起こし壊死する「絞扼性イレウス」と呼ばれるものには緊急手術が必要です。

鼡径(そけい)ヘルニア嵌頓

鼠径ヘルニアとは俗にいう「脱腸(だっちょう)」です。嵌頓(かんとん)とは脱出した腸の一部が入口(ヘルニア門)で締め付けられ、もとに戻らなくなる状態をいいます。締め付けられてもとに戻らなくなった腸は血流障害を起こし最終的には壊死してしまいますので、緊急手術にて嵌頓を解除する必要があります。

消化管穿孔(せんこう)

食べ物が通る通り道である消化管に穴が開く病気です。基本的には食道・胃・十二指腸・小腸・大腸とすべての消化管が穿孔を起こし得ます。放置すると消化管の開いた穴から食べ物や腸液がおなかの中に漏れ出して腹膜炎を起こし、致命的となる場合が多いため、消化管穿孔と診断された場合は時間を待たずに緊急手術が必要です(ただし状態によっては手術せず様子を見る場合もあります)。特に大腸の穿孔は、大量の菌を含む便がおなかの中に漏れて腹膜炎を起こし、手遅れになると敗血症(全身に菌が回ること)や臓器不全(全身の臓器が機能不全に陥ること)に進行して死に至る恐ろしい病気です。

その他の腹痛の原因疾患

腹痛は消化器疾患に由来することが多いですが、消化器以外の臓器の疾患でも起きることがあるため注意が必要です。心臓や大動脈疾患(急性心筋梗塞、腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離など)、泌尿器科疾患(腎・尿管結石など)、産婦人科疾患(子宮外妊娠、卵巣茎捻転、卵巣出血など)が疑われる場合は、迅速に近隣の専門医のいる病院に紹介致します。