粉瘤(ふんりゅう)
粉瘤(ふんりゅう、アテローマとも呼ばれます) とは、皮膚の下に嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋状の構造物ができ、本来は皮膚から剥げ落ちるはずの角質(垢)と皮脂(脂)が袋の中に溜まることでできる皮膚の良性腫瘍(できもの)の1つです。
溜まった角質や皮脂は袋の外には出られず、どんどん溜まっていきますので、時間とともに少しずつ大きくなっていきます。
身体のどこにでもできますが、顔、首、背中、耳のうしろなどにできやすい傾向があります。
やや盛り上がった数mmから数cmの半球状のしこりで、しばしば中央に黒点状の開口部(皮膚に開いた穴)があり、強く圧迫すると、特有の臭いのあるドロドロした粥状の物質が出てくることがあります。
通常、粉瘤に痛みやかゆみなどの症状はありませんが、皮膚開口部より細菌が侵入して感染すると内部に膿がたまって赤く腫れ上がり、痛みをともなうようになります。
これを「炎症(化膿)性粉瘤」と呼びます。
軽い炎症であれば抗菌薬を内服すれば炎症は治まりますが、ひどく化膿すると膿がたまった状態(膿瘍)になり、この場合、抗菌薬を内服しただけでは効果が少なく、粉瘤の一部を切開し膿を出す応急処置(切開排膿といいます)が必要です。
応急処置を行い、炎症が落ち着いてから、根治的な摘出術(根治術)を行います。
炎症が起きた状態で摘出術を行うと、取り残しのリスクが上がり、再発してしまう恐れがあるからです。
粉瘤の根本的な治療は摘出(手術)のみです。
その理由は、
・自然治癒が期待できず、薬の治療は不可能であること
・感染すると炎症で痛み、発赤、腫脹が生じ何度も治療が必要となること
などです。
粉瘤は良性の腫瘍であり、感染を起こしていなければ手術するかどうかは、あくまでもご自身の判断であり、摘出(手術)しないで経過を見るという選択肢もあります。しかし、粉瘤を放置すると徐々に大きくなったり、炎症や感染を何度も起こし、結果的に放置しなかった場合と比較して大きな傷の手術が必要になる可能性もあります。
粉瘤摘出術
局所麻酔の後、皮膚を切開し、嚢胞壁(袋)を周りの組織から剥がすようにして摘出します。
袋をすべてきれいに取り除ければ再発することはほぼありません。
色素性母斑(いわゆる「ホクロ」)
大きさは大小さまざまで、平坦なものから盛り上がったもの、黒色のものから茶色(褐色)のものまであります。色素性母斑は、母斑細胞が皮膚の表皮と真皮の境目もしくは、真皮の中に存在してメラニン色素を作り出すため、黒色や褐色に見えます。生まれつき存在するものもあれば、後で出現する場合もあります。
小さな色素性母斑は悪性化することはほとんどありませんが、以下のようなものは悪性の場合があるので注意が必要です。
・「ホクロ」がいつの間にかできて、次第に大きくなる。
・形状が左右対称でない。
・色の濃淡がある。
・境界が不明瞭である。
・出血してなかなか治らない。
直径数 mm までの小さなホクロには焼灼法(電気メスやレーザーによって焼くこと)もありますが、それ以上の大きなホクロに焼灼法を行うと上皮化(傷が治ること)に約 2〜3 週間と長くかかるうえ、傷がくぼんだような陥凹瘢痕となって逆に目立つことが多いため、当クリニックでは以下の単純切除法を主に行っています。
紡錘形切除法
最も基本的な切除法です。縫合線が自然な皺襞(しわ, ひだ)の方向に一致するようにデザインします。
楕円形切除法
仕上がりの縫合線の長さが紡錘形切除よりも短くなる傾向があります。
くり抜き法
さらに縫合線を短くしようとする方法ですが、鼻や口唇部など皮膚が厚い部分に限られます。
大きめのホクロを切除した後に、無理に皮膚を縫い閉じようとすると「dog ear (傷の両端が盛り上がって変形すること)」ができたり、特に鼻や耳(耳介)、口唇付近では逆に変形した状態で治癒することがあるため、あえて傷を縫い合わせない場合もあります。このような場合でも、少し時間はかかりますが、最終的に目立った瘢痕を残さない場合がほとんどです。
一方、ホクロ切除後の皮膚欠損に対して単純縫合が困難で、「皮弁法」や「植皮法」が必要と予想される場合や、ホクロの悪性化が疑われる場合は当クリニックでは手術を行っておらず、近医の高次医療機関の形成外科などにご紹介致します。
ホクロ除去の費用について
ホクロの除去手術は、健康保険が適応になる場合と保険適応外(自費診療)の場合があります。「顔のホクロが気になるので取ってすっきりしたい」「ホクロが多いので除去して見た目を良くしたい」など美容目的の場合は、自費診療(全額自己負担)となります。これまで健康保険が適応になる例として、「ホクロに悪性化の疑いがある」「ホクロがあることで視野が遮られ生活に支障がある」「洗顔時や服などにホクロがこすれて出血する」などが言われておりましたが、自己申告の内容の有無によって健康保険と自費の適応を決めるのは公平さに欠ける点が多く、また申告に応じて健康保険で切除した場合でも保険適応できなかった場合は、保険請求分が差し戻され結局自己負担分以外の費用を当院が負担することになり問題が多いと考えております。当面の間、当院では「ホクロに悪性化の疑いが強い場合」のみ健康保険適応での対応とさせて頂きますのでご理解頂けますようお願い致します。
例1)顔面の直径 5mm のホクロ除去
- 健康保険適応(自己負担3割の場合):手術料+初診料+薬剤費+病理検査費など
- =約 9000 円前後
- 自費診療:約 3 万円弱
例2)太もも(大腿)の直径 12mm のホクロ除去
- 健康保険適応(自己負担3割の場合):手術料+初診料+薬剤費+病理検査費など
- =約 7000〜8000 円程度
- 自費診療:約 2.5〜2.8 万円程度
例3)顔面の①直径 3mm と②直径 7mm の 2 個の同時ホクロ除去
- 健康保険適応(自己負担3割の場合):手術料(①+②=直径 10mm の切除に相当
- する額)+初診料+薬剤費+病理検査費など=約 9000 円前後
- 自費診療:手術料(①相当分+②相当分)+初診料+薬剤費+病理検査費など=約
- 4.5〜5 万円程度
疣贅(いわゆる「イボ」)
ウイルスや加齢によってできるものが多いです。外見が気になるだけでなくかゆみや炎症を起こすものや、衣類などに擦れる、引っかかるなど日常的な支障をきたしている場合があります。代表的な治療法に皮膚科などでの「液体窒素凍結療法」や「炭酸ガスレーザー治療」がありますが、当院では行っておらず、治療は基本的に根治切除を行っています。
切除は、悪性を強く疑う場合以外は基本的に自費診療(保険適応外)となります。費用は上記の「ホクロ除去」の費用負担とほぼ同様です。
また、保険適応となるかは診察のうえ判断させて頂きます。診察後、自費診療(保険適応外)と判断させて頂いた場合は切除を行わない場合でも、当日の診察料(約3000円)は自費でのご負担となります。あらかじめご了承頂けますようお願い致します。
脂肪腫(しぼうしゅ)
脂肪腫は、脂肪細胞が増殖し、周囲の脂肪組織とは別の塊を形成したもので、皮下に発生する軟部組織の腫瘍の中では非常に多くみられる良性の腫瘍(できもの)です。
通常、柔らかく痛みのない1〜10cm程度のしこりとして触れ、浅い皮下組織に見られることが多いですが、筋膜下(筋肉内)にも生じることがあります。
正常な脂肪細胞が存在する部位のどこにでもできますが、体幹に多く見られます。
数年単位で徐々に大きくなる傾向があります。
診断は、臨床所見から明らかなことが多いですが、以下のようなものはエコー検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が必要な場合があります。
・巨大なもの(10cm以上)
・硬いもの
・急速に成長したもの
・痛みを伴うもの
・辺縁の立ち上がりが急峻で、皮膚の赤みを伴うもの
・耳の周りやあごの下にあるもの
これは、脂肪腫との区別を要する疾患として、皮膚や分泌腺由来の嚢腫や軟部組織の肉腫(悪性腫瘍)などがあるためです。
画像上、これらが疑われる場合は、耳鼻咽喉科や軟部悪性組織の専門医をご紹介致します。
脂肪腫は良性腫瘍なので、放置しても命に関わることはありません。
しかし大きくなってから手術をすると、局所麻酔ではできず全身麻酔が必要になる場合がある、傷跡が大きくなる、もし悪性だった場合には治療の遅れが問題となるなどのデメリットがあります。
したがって、ある程度の大きさになったものでは摘出(手術)をする方がよいでしょう。
脂肪腫の治療法
脂肪腫に対する治療法は手術による摘出です。
摘出術では、直上の皮膚を脂肪腫の直径にほぼ一致するように切開し、被膜を破らないように周囲組織から剥がして摘出します。
摘出後は、血腫(血が溜まる)を予防するため十分に止血し、必要に応じてドレーン(溜まった血液などを排出するビニール製の管)を挿入します。
きれいに摘出された脂肪腫の再発は稀です。
ガングリオン
おもに手首や足首にできる米粒からピンポン玉くらいまでの腫瘤で、女性に多く見られます。関節包(関節を包む袋)や腱鞘(腱を包むさや)の潤滑油である滑液が濃縮してゼリー状になり袋に包まれた状態がガングリオンです。したがって、特に関節からできるものは、関節包につながる長い茎でつながっていることがほとんどです。軟らかいものから硬いものまであり、手を使いすぎると腫瘤は大きくなることがあります。通常は無症状なことが多いのですが、時に神経のそばにできると神経を圧迫して、しびれや痛み、運動麻痺などを起こすことがあります。ガングリオンは手首の甲に最もできやすいですが、その他にも身体中の至る所に生じます。骨や筋肉、神経に出来るガングリオンもあります。これらは粘液変性したものが融合して生じると考えられています。
腫瘤があり、注射針を刺してゼリー状の内容物が吸引できればガングリオンと診断できます。なかには外側から触れない小さなガングリオンもあります。そのような場合は診断がつきにくいので、超音波検査やMRI検査にて診断します。
ガングリオンは腫瘤のみで無症状の場合は、放置しても心配はありませんが、大きくなるもの、痛みが強いもの、神経が圧迫されて神経症状があるもの(痛みや運動障害など)は治療が必要になります。治療のひとつとして、ガングリオンに注射針を刺して注射器で吸引し内容物を排出する方法がありますが、前述のように関節とつながっていますので、再び関節包から流れ出た滑液が貯留して高い確率で再発します。
繰り返し内容物が溜まる場合は、摘出手術を行います。手術をしても再発する可能性もあります。再発を防止するためには、上記の茎を含めたガングリオンの摘出が必要であり、関節包の周囲に生じているガングリオン予備群の娘シスト(別の小さなシスト)も取り残さないようにします。