胆嚢(たんのう)について
胆のうは、胆汁(食事で摂取した脂肪分やビタミンの消化・吸収を助ける黄褐色の消化液で、肝臓で1日に600〜800mL程度つくられ十二指腸に排泄される)を一時的に蓄えておく貯蔵庫のような働きをしています。
胆石の種類
1.コレステロール系結石
- 純コレステロール結石:石を割ると放射状のコレステロール結晶が見られ、胆のう内に1個のことが多い。
- 混成石:石を割ると放射状構造と層構造が混在する結石で、複数個のことが多い。
- 混合石:主成分のコレステロールと、胆汁の色素である「ビリルビン」などが混じりあった結石。
2.胆汁色素(ビリルビン)系結石
- 黒色石:金平糖状〜砂状の真っ黒な結石で、ビリルビンの重合体や炭酸カルシウムなどからなり、数個〜数十個と多数のことが多い。
- ビリルビンカルシウム石:ビリルビンと石灰(カルシウム)が主成分で、胆汁の流れが悪くなってこれらが沈殿してできたもの。年輪のような層構造を持つ。
このうちコレステロールを主成分とするコレステロール系結石が胆石の約80%を占めていると言われています。
胆石になりやすい方
胆石症の危険因子は古くから「5F」と言われ、年齢(Forty)、性別(Female)、 肥満(Fatty)、 人種(Fair=白人)、 妊娠・出産(Fertile)などが挙げられてきました。このためコレステロール結石は中年以降の女性に多いと言われていましたが、近年は男女に差がほとんどないとも言われています。発症には脂質異常症、肥満や過食、不規則な食生活、過度のダイエットなどの生活習慣、胆嚢機能低下などが関係していると言われています。一方、色素結石は胆汁色素のビリルビンが関与しており、細菌感染が原因であるものや、貧血の一種(溶血性貧血)や、肝硬変などに多いことが言われていますが、原因ははっきりしていません。
胆石の症状
胆石の症状には、右季肋部(右のあばら骨の下あたり)の痛みや違和感などがあります。
胆石があるからといって必ずしも痛みが出るとは限らず、胆のう結石の6〜8割の方は症状がないまま発見される(無症候性)と言われています。
胆石に関連して起きる痛みを「胆石発作」と呼ぶことがあります。これは食後(特に脂肪の多い食事)、数時間以内に起きる心窩部(みぞおち)から右上腹部の痛みで、強い痛みの場合もあれば重苦しい程度の軽い場合もあります。時に背部(背中〜右肩)への放散痛(痛みが響くこと)や悪心・嘔吐を伴うことがあります。胆嚢は胃に近いため、胃が悪いと思い込んでいて、検査したら実は胆石だったということはよくあります。胆石があると急性胆嚢炎を起こすことがあり、この場合痛みや発熱以外に黄疸(全身が黄色くなること)が出ることがあります。黄疸が強く出る場合は急性胆管炎を合併していることが多く、この場合進行すると敗血症(全身に細菌が回る状態)となり生命に関わる危険な状態になるので、緊急に治療をする必要があります。
胆石の検査・診断
胆石の患者さんは、人間ドックや健康診断で腹部超音波検査を行った際に見つかる場合や、痛みを訴えて医療機関を受診し画像検査にて痛みの原因を探るうちに見つかる場合が多いです。いずれの場合でも胆石の診断には腹部超音波検査が有効で、プローブと呼ばれる聴診器のようなものをお腹に当てるだけなので患者さんへの負担が軽いという利点があります。胆のう内に結石エコーと呼ばれる像を確認して胆石と診断します。
一方、胆石の種類によってはCT検査でも診断が可能で、特に胆のうが炎症を起こしている(急性胆嚢炎)ことが疑われる場合はさまざまなことがわかるためCT検査は特に有用です。
■腹部超音波検査
胆のう内に胆石がある方は、胆管の中にも胆石(胆管結石)を合併していることも珍しくなく、胆管に結石がないかどうかを調べるためには、DIC-CT(点滴静注胆道造影CT)もしくはMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)を行うことが必要です。DIC-CTは、造影剤を点滴した後CTを撮影し、画像を3次元的に表示して診断します。ただし、黄疸がある場合や結石が胆のう管や胆管に詰まっている場合はこの検査では評価できない場合もあります。MRCPは、放射線被ばくがなく負担が少ない検査ですが、金属を体内に埋め込んでいる方、閉所恐怖症の方、刺青を入れている方などは検査が行えないことがあります(MRCPは当クリニックでは撮影することができず、必要な場合は他の医療機関での撮影のご紹介を致します)。
■DIC-CT(点滴静注胆道造影CT)
■MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)
胆石(胆のう結石)の治療・手術
胆管結石を除く胆のう結石に対しては、胆石の痛みなどの症状がない場合(無症候性)は、
積極的には手術をおすすめしないこととなっています。
その理由は症状のない胆石の方を治療せずに経過観察した場合、痛みなどの症状を発症することが少ない(年間2〜4%)ためです。ただし、小さな胆石がたくさんある方は下流の総胆管に結石が落石して痛みなどの発作を起こしやすく、治療も複雑になります。また、胆嚢に胆石が充満していて胆嚢の中を詳しく調べられない場合や、胆嚢の壁が厚い場合は慢性的な炎症とがん(胆嚢癌)を鑑別することが困難なため注意が必要です。
一方、「有症状の胆嚢結石症に対しては、腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことを強く推奨する。」ことが、本邦の「胆石症診療ガイドライン」(日本消化器病学会)に明記されています。
理由は、軽症では年間1〜3%で、中等度例では年間6〜8%, 高度例ではそれ以上の頻度で、重篤な症状や合併症(急性胆嚢炎、急性胆管炎、黄疸、急性膵炎)を発症する恐れがあるためです。また、それ以上に食後の胆石の痛みによる生活の質(QOL: Quality Of Life)の低下も見逃せません。
腹腔鏡下胆嚢摘出術
胆のう結石症の手術は、基本的に胆石が入った袋である胆のうごと取り出します。
これは、胆のうを残して胆石のみ取り除いても、再び胆石が発生する可能性があるためです。胆のうを取り除く手術は全身麻酔が必要で、以前はお腹を切って(開腹手術)手術を行っていましたが、現在では腹腔鏡下胆嚢摘出術が第一選択となっています。この方法は開腹手術と比較して、傷口が小さく術後の痛みが少ないため、日常生活への復帰が早いことが特徴です。日本内視鏡外科学会の全国アンケート調査(第16回)では、2021年の全ての胆嚢摘出術(36,730件)のうち34,110件(93.0%)は腹腔鏡下に行われていました(開腹手術2,582件=7%, ロボット支援下手術38件=健康保険適応外)。
具体的には、お腹に5mm(当院では3mmを積極的に使用)〜12mmの小さな切り口(穴)を開け、そこにトロッカー(もしくはポート)と呼ばれる鉗子やカメラなどの通路の役割をするプラスチック製の筒を入れます。お腹に二酸化炭素のガスを注入してすき間をつくり、腹腔鏡と呼ばれるカメラをお腹に差し込み、お腹の中の様子をテレビモニターに映し出します。鉗子と呼ばれる手術器具を出し入れして、従来の開腹手術と同じ内容の手術を行います。
一方、複数回の手術の影響でお腹の癒着が強い場合や、胆のうの炎症が強く組織の剥離が腹腔鏡下に困難な場合は手術の途中からお腹を開ける開腹手術に移行せざるをえない場合があります。また、非常にまれですが胆のう癌を合併している可能性がある場合は最初から開腹手術をおすすめする場合もあり、この場合は大きな手術に対応可能な病院をご紹介いたします。
胆嚢のその他の病気(胆のうポリープ)
胆のうポリープは、胆のうの内側にできる限局した隆起病変のことを言います。胆のうポリープのほとんどは無症状で、検診などで偶然発見されます。胆のうポリープと診断された段階で、全ての方が治療(手術)する必要はありません。治療の対象となるのは、以下のように悪性(胆のう癌)の存在する可能性があるものになります。
悪性(胆のう癌)を疑う所見としては
- ① ポリープの大きさが10mm以上のもの
- ② 経過観察の検査でポリープが増大傾向にあるもの
- ③ 大きさに関わらずポリープの茎が幅広いもの(「広基性ポリープ」と呼びます)
- ④ ポリープの表面や内部の性状、血流などに特徴的な所見があるもの
などがありますが、総合的に手術の適応を判断しています。
胆のうポリープの治療では、胃や大腸のポリープの様に「カメラでポリープだけを取る」というわけにはいかず、胆嚢摘出手術が必要です。一般的には腹腔鏡下胆嚢摘出術を行い、胆のうを病理検査で調べることで最終的にがんであるかどうかの判断をすることになります。非常にまれですが、胆のう癌の疑いが強い場合は、最初から開腹して周囲の肝臓や胆管なども含めて大きく切除を行う必要があることもありますので、この場合は大きな手術に対応可能な病院をご紹介いたします。
傷の大きさ(開腹手術との比較)
開腹手術と比較して腹腔鏡手術の切開創の数はやや多いですが、それぞれの傷の大きさが小さいため、治癒すると傷跡はほとんど目立たなくなります。また、術後の痛みが軽く日常生活への復帰が早いです。
胆のう摘出手術は日帰り手術が可能です。
日帰り手術のメリット
土曜日もOK!生活への影響を最小限に
当クリニックでは、土曜日も手術を行っていますので、患者様のご都合の良い日に合わせたスケジュールが立てられます。
日常生活のリズムを変えずに手術ができます。
負担が少なくなる
日帰り手術は術後に入院を強いられることがないため、身体的・心理的負担が少ないのも特徴のひとつです。
特に小さなお子様のいらっしゃる方や、家事や育児などで入院が難しい方などには日帰り手術のメリットは大きいです。
治療費の節約ができる
社会復帰も早く、医療費の多くを占める入院費が削減され、後にご説明する高額療養費制度により自己負担額は年収にもよりますが、低く抑えられます。
経歴・手術実績
これまでに術者や助手として1000件以上の消化器外科の腹腔鏡手術に携わってきました。腹腔鏡下胆嚢摘出術はこれまでに150件以上を術者(執刀医)として経験してきました。
高額療養費制度
高額療養費は、1か月に支払う医療費が自己負担額を超えた場合に、超えた分が払い戻されます。もしくは事前に「限度額適用認定証」を準備し、医療費の支払い時に窓口で健康保険証と一緒に提示することで窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。
例えば、1か月にかかった総医療費が50万円だった場合、払い戻される高額医療費のイメージは次のようになります。
総医療費50万円の場合の高額医療費による払い戻しイメージ
(例:70歳未満 区分「エ」の場合)
この自己負担限度額とは自己負担の上限額のことで、その額は年齢と所得によって決まります。
自己負担限度額の目安(70歳未満の方)
区分 | 所得区分 | 自己負担限度額 |
ア | 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:賦課基準額901万円超 | 252,600円+(総医療費−842,000円)×1% 【多数回該当140,100円】 |
イ | 健保:標準報酬月額53〜79万円 国保:賦課基準額600〜901万円 | 167,400円+(総医療費−558,000円)×1% 【多数回該当93,000円】 |
ウ | 健保:標準報酬月額28〜50万円 国保:賦課基準額210〜600万円 | 80,100円+(総医療費−267,000円)×1% 【多数回該当44,400円】 |
エ | 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:賦課基準額210万円以下 | 57,600円 【多数回該当44,400円】 |
オ | 低所得者(住民税の非課税者等) | 35,400円 【多数回該当24,600円】 |
※受診時にマイナンバーカードをご持参されますと、当院でオンラインでの資格確認が可能ですので、「限度額適用認定証」のご準備が不要になり、手続きがスムーズで簡略化されます。手術を検討されている方はあらかじめのご準備を是非ご検討ください。
※自己負担額は世帯で合算できます(世帯合算)
※自己負担額の基準:医療機関ごとに計算します。同じ医療機関であっても、医科と歯科、入院と外来は分けて計算します。
※多数回該当:過去12か月以内に、3回以上自己負担限度額に達した場合に、4回目から自己負担限度額が軽減される仕組みです。
限度額認定証の申請方法
ご不明な点がありましたら、当院にお気軽にご相談ください。
国民健康保険の方 | お住まいの市町村または国保組合にご確認ください。 |
社会保険の方 | 加入されている健康保険組合またはお勤め先にご確認ください。 |
※受診時にマイナンバーカードをご持参されますと、当院でオンラインでの資格確認が可能ですので、「限度額適用認定証」のご準備が不要になり、手続きがスムーズで簡略化されます。手術を検討されている方はあらかじめのご準備を是非ご検討ください。
胆石(胆のう結石)の治療の流れ
■初診~治療方針の決定
お電話でのお問い合わせやネット予約も受け付けております。
医師による診察と腹部超音波検査やCT検査を行い、胆石の状態を診断します。さらに必要に応じて当院でのDIC-CT(点滴静注胆道造影CT)もしくは近隣の医療機関にてMRI検査の一種であるMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)検査を行います。
手術が必要かどうかについてご説明します。手術日をご相談の上、決定します。
血液検査、胸部レントゲン検査などを行い、手術や麻酔に耐えられるかどうかを調べます。
手術前日と当日の食事制限や内服薬の継続、休薬についてのご説明をします。その後、医師から手術内容の具体的なご説明の後、手術同意書にサインをして頂きます。
■手術当日
手術前
※受付後、病衣に着替えて頂きます。
※点滴を行います。
※必要に応じて背中から痛み止めの管(硬膜外カテーテル)を入れます。
※眼鏡やコンタクトレンズ、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリー、マニキュアなどは外して頂きます。
※女性の方は、お化粧をしないで来院してください。
手術後
※バイタル測定(血圧、心拍数、心電図、経皮的酸素飽和度など)を行います。
※痛みが強い場合は、痛み止めの点滴や硬膜外鎮痛薬を使用します。
※手術後2時間くらいで水分をとったり、トイレに行ったりするのが大丈夫であることを確認します。
※手術終了後3~4時間で、問題なければ帰宅できます。ただし、ご自身で車を運転して帰るのはお勧めしておらず自己責任となります。送迎の方のご準備やタクシー、交通機関などの方法をご検討ください。来院時のみご自身で運転して来られて、当院の駐車場(無料)に車を置いて帰宅し、後日車を取りに来られるという方法もあります。
手術当日退院後
局所麻酔が効いているため、それほど痛みは感じず歩行でき、家の中の日常生活はできます。痛みがあれば、帰宅時にお渡しした痛み止めをお使いください。お傷には防水の絆創膏を貼っていますので、そのままシャワーを浴びることができます。当日の夕食はとって頂いても構いませんが、吐き気がある場合は無理せず水分摂取やゼリーなどにとどめてください。
手術後1日目
手術翌日は起き上がろうとしたり、咳をしたりすると多少の痛みを感じます。必要に応じて痛み止めの薬をお飲みください。痛み止めを飲みながらの日常生活や軽い外出も可能ですが、遠出は避けてください。また、手術後数日間は入浴を避けてシャワー浴をおすすめします。
手術後2日目
手術翌日より痛みは和らぎます。デスクワークのお仕事であれば出勤される方もいらっしゃいます。術後の痛みの程度や遠方かにもよりますが、手術後1日目~3日目での外来受診をおすすめしております。お傷の状況や痛みの程度の確認をします。
手術後4日目
日常生活は問題なくできますが、痛みや違和感は少し残ります。
手術後7日目
入浴も問題なく可能です。軽い痛みや違和感は人によってはまだあることがあります。
手術後約2週間
軽い運動もできるようになります。
手術後約1ヵ月
術後1ヵ月たつと本格的な運動もできるようになります。
※手術後の経過には個人差があります。必ずしも上記のとおりに経過することを保証するものではありませんので、あらかじめご了承頂けます様、お願い致します。
胆のう摘出手術後の注意点について
下痢や腹痛
胆嚢を取り除いた後に、手術前と同じような症状が続いたり、手術前にはなかった腹部症状(下痢や腹部膨満感、嘔気、腹痛など)がまれに出現することがあり、これを「胆嚢摘出後症候群」といいます。原因ははっきりとわかってはいませんが、胆汁の貯蔵庫である胆嚢を喪失することにより、胆汁排泄の生理的な連動リズムの障害(迷走神経刺激や消化管ホルモンのコレシストキニンと十二指腸乳頭部Oddi括約筋弛緩不全→腹痛)や、胆汁酸代謝の変化(胆汁酸プールにおいて二次胆汁酸であるデオキシコール酸の比率の増加による糞便中の水分量の増加→下痢)、持続的な十二指腸への胆汁酸流入(→胃炎や逆流性食道炎)などが言われています。
治療は食事療法(脂肪成分の少ない食事や時間をかけて食事をとることなど)や薬物療法があり、胆汁分泌や胆汁組成調整作用のあるウルソデオキシコール酸(ウルソ®)やOddi括約筋鎮痙薬(弛緩薬)のブチルスコポラミン(ブスコパン®)などが用いられます。
落石(落下結石)
胆のう摘出手術後に胆管(総胆管)内に結石が遺残していることが、手術後の画像評価で見つかることがまれにあります。これは手術前のCTやMRI(MRCP)での画像評価で胆管結石の存在を見落としていた場合や、胆のう摘出手術時の胆のう操作の影響で胆嚢内→胆嚢管→胆管(総胆管)へと小さい胆石が移動し落下(落石)してしまった場合、胆のう摘出手術後の時間が長期間たってからの場合は新たに胆管内に結石ができた(総胆管原発の結石)などが考えられます。いずれの場合も現時点では、消化器内科医による内視鏡治療(胆管の出口の十二指腸乳頭部を切開もしくは小さな風船であるバルーンで拡張してからバスケットカテーテルなどの胆石を取り出す専用の器具などを用いて除去)が第一選択となっていますので、当院では行えず対応可能な病院にご紹介致します。
胆石(胆のう結石)の相談を予約できます。
胆石症(胆のう結石)の手術についての現状と私見
腹腔鏡下胆嚢摘出術に伴う手術合併症については、これから手術を受けようとする方であれば誰しもが気になるところであると思います。同じく日本内視鏡外科学会の全国アンケート調査(第16回)では、2021年に報告された腹腔鏡胆嚢摘出術(34,110件)のうち、胆管損傷(総胆管、肝管、その他、部位不明の合計)は121例(0.35%)、開腹手術を要した出血は20例(0.058%)、他臓器損傷(消化管、血管、肝、その他の合計)は79例(0.23%)が報告されています。これらの数字は急性胆嚢炎などで炎症の強い症例や、過去の手術の影響で腹腔内の癒着の強い症例、胆管走行の先天異常(異所性胆管, 副肝管)のある症例など難易度の高い症例を含み、また施設間や執刀医(研修医〜指導医まで)の技術レベルのばらつき、アンケート調査の限界(すべて漏れなく報告されているとは限らない)から真に正確な数字は推定困難です。これらの合併症の数字を高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれですが、一定の確率で合併症が発生しうることは否定できないのが現況です。
腹腔鏡下胆嚢摘出手術を日帰り手術に限らず安全に行い、手術の合併症を限りなくゼロに近づけるためにはどのような点に注意して実行すればよいのか。これは本手術が開発された約35年前から現在まで数多くの外科医が一生懸命に取り組んできましたが、上記のように完全にはなくすことはできていません。
私(院長)は、大学院卒業後に仙台市内で腹腔鏡下胆嚢摘出術を比較的多く行っている病院で研修させて頂く機会がありました。そこで日々の胆石手術を重ねるうちに手術の難易度や手術に要する時間が症例ごとに極めて大きな差があることを実感しました。幸い大きな合併症を起こすことはありませんでしたが、具体的には胆嚢炎などによる炎症が強い症例、お腹の中の癒着が強い症例では手術難易度が高く、手術時間も延長しており、合併症を起こす危険性が高いと考えられました。同様の実感は先輩の外科医は誰しもが当然お持ちだったと思いますが、実感だけで具体的なデータがなければ他人はおろか自分をも納得させることができないと思い、同病院の過去の腹腔鏡下胆嚢摘出術のデータをまとめて解析を行うこととしました。調べたところ過去に数千例の腹腔鏡下胆嚢摘出術の症例数があるようでしたが、数が多すぎるため比較的近年に絞って解析を行いました。以下にその結果をお示しします。
抄録には記載されていませんが、導き出された腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術困難度といえる手術時間予測式は以下のようになります。
手術時間(分)=35×身長a)+7.5×ASA-PSb)+8.8×(平均胆嚢壁厚−3)c)+CRP peakd)+35×上腹部開腹手術既往e)+28×慢性胆嚢炎f)+20×術中胆道造影予定g)+23×特殊要因h)−12×術者経験i)+17
a) 単位: m2
b) 米国麻酔学会術前評価分類 Class 1=1, Class 2=2, Class 3=3, Class 4=4
c) 単位: mm, 負値となる場合は0
d) 単位: mg/dl, 1ヵ月以内のピーク値
e) あり=1, なし=0
f) あり=1, なし=0, 萎縮胆嚢や高エコーを伴う胆嚢壁肥厚所見
g) あり=1, なし=0
h) 特殊要因=気腫性胆嚢炎, 穿孔性胆嚢炎, 胆嚢周囲膿瘍, Mirrizi症候群, 胆嚢頸部結石嵌頓, Confluence stone, 膵炎合併の既往, 肝硬変, 意志疎通困難のいずれかあり=1, なし=0
i) 術者経験: <50例=1, 50〜299例=2, >300例=3
上記を順番に説明しますと、身長は言い換えると性別ですので男性で胆嚢炎発症例が多く、ASA(米国麻酔学会術前評価分類)は急性胆嚢炎などによる緊急手術症例で全身状態不良症例の多さを反映し、胆嚢壁厚は急性胆嚢炎では通常よりも胆嚢の壁の厚さが炎症で肥厚するため炎症の程度を反映し、CRPは血液検査所見ですが炎症の程度を反映し、上腹部開腹手術既往は過去の大きな傷の開腹手術つまりはお腹の中の癒着の程度を反映し、慢性胆嚢炎は慢性的な炎症による周囲組織との癒着による胆嚢の剥離の困難さの度合い、術中胆道造影は単純にそれに要する時間を、特殊要因は特殊で重症な胆嚢結石症例さらには、肝硬変は出血の素因を、意思疎通困難な高齢者や知的障害患者などは胆嚢炎発症で発見される場合が多いことなど、術者経験は術者(執刀医)の技術レベルの反映を示しています。
このことから導き出されることは、日帰り手術を基本とする当院では、急激にお腹が痛くなって発熱も出るようになったような急性胆嚢炎を主体とする炎症の方(胆石発作といって痛みはあるが発熱や炎症を伴わないケースは日帰り手術の適応と考えます)、過去に胃がんや十二指腸潰瘍などで上腹部の開腹手術の既往がありお腹の中の癒着が強いことが予想される方、その他緊急手術が必要と判断される方の日帰り手術は、現時点では対応困難であると考えております。また、病状によりその他の要因でも日帰り手術困難と判断させて頂く場合もあり得ます。このような場合は入院手術が可能な病院をご紹介致しますのでご安心して御相談頂ければと思います。
内容を簡単に説明しますと、腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術前に胆道系(胆嚢や胆管の走行や結石の存在)の画像評価(MRCPやDIC-CTなどによる)を行うことが一般的となっていますが、さらに術中胆道造影(IOC)と言って、手術中に胆道内に造影剤を注入して結石の遺残や胆道損傷の有無などを調べることを行っておりました。しかし、術前のMRCPやDIC-CTによる画像評価で指摘できなかった胆管結石を静止画像のみの術中胆道造影で、指摘することは困難という結果でした。また、胆管損傷を起こす原因のひとつとして胆管の走行異常=異所性胆管(副肝管)が考えられますがこれが原因となることは少なく、むしろ前述で指摘した炎症による癒着や執刀医の誤認による影響の方が強い結果でした。
このため、エビデンス(確固たる証拠)はありませんが、近年ICG(インドシアニングリーン)という蛍光色素を用いたICG蛍光イメージング(ナビゲーション)手術が解決策になることを期待しております。ICG蛍光はもともと、乳がんや消化器がんのセンチネルリンパ節同定に用いられてきた、安全で簡易な方法として長年用いられてきました。これを術中胆管造影に用いることで胆管損傷の発生率低下に寄与するのではないかと思っております。
具体的には当院で採用しているSTORZ社の高精細4K腹腔鏡には、蛍光画像と通常の白色画像をボタンワンタッチ1つで交互に切り替えることができる機能を搭載していますので、ストレスなくかつ患者さんへの負担も最小限で胆道系の評価をすることができます。
高精細4Kカメラによる腹腔鏡手術
当クリニックでは、「STORZ社」の高精細の4K内視鏡画像を用いた腹腔鏡手術を行っております。「4K」とは、横×縦=4000×2000pixel前後の解像度に対応した映像の総称です。フルハイビジョン(1920×1080pixel)の約4倍の画素数を有する4Kでは、高精細化により従来のフルハイビジョン映像では認識しにくかった細かい構造物の視認性が向上し、正確で安全な手術が可能です。また、広色域化により幅広い色再現性が実現し、近接観察による拡大視効果も同時に得られるため、正確で安全な手術につながります。
腹腔鏡下胆嚢摘出手術での画像比較
高精細の画像により、細かい構造物の認識が可能で精度の高い手術につながります。
旧世代のHD画像と比較すると、画質の違いは明らかです。微細な構造物も容易に認識可能で、血管損傷による出血量の減少や、胆管損傷による術後胆汁瘻の予防が期待されます。
胆石Q&A
日帰り手術Q&A
胆石(胆のう結石)の相談を予約できます。