原因
はっきりした原因はわかっていませんが、硬便の排泄や勢いよく出る下痢便などにより、肛門上皮が切れて生じます。また、肛門を締める内括約筋の緊張が強すぎる方が多く、これに伴い肛門上皮への血流量が低下し、虚血になるため発生するという考え方もあります。
症状
排便中および排便後に出現する肛門痛が特徴的です。痛みは排便後もしばらく続くこともあります。鮮血色の出血がトイレットペーパーにつく程度のことが多いですが、便器が真っ赤に染まるほど出血する場合もあります。慢性化すると潰瘍になり、常に痛みが伴うようになり、さらに肛門が狭くなってしまうことがあります。裂肛はほとんどの場合、肛門の後方もしくは前方に発生します。
診断
多くは問診と肛門鏡での観察で診断することができますが、痛みにより十分な診察ができない場合もあります。また、脱出する痔核によって肛門上皮が牽引されて裂肛を合併する随伴性(ずいはんせい)裂肛や、クローン病に合併し浮腫性の肛門上皮を伴う症候性(しょうこうせい)裂肛などの特殊なタイプもあります。
分類
裂肛は、急性期のものと慢性期のものに分類されます。
急性期
比較的浅いものが多いです。ほとんどの場合、保存療法(軟膏、食生活や排便習慣の改善)で治癒します。逆にこれらが改善しない場合、再発する可能性が十分あります。
慢性期
裂肛が治癒せずに、長期間繰り返した場合に「慢性裂肛の3徴」と呼ばれる「深掘れした潰瘍(亀裂)」「肛門ポリープ(肥大乳頭)」「見張りイボ(肛門皮垂)」が見られるようになり、肛門狭窄も時に合併します。深い潰瘍の底部には内括約筋の線維が露出し、強い痛みの原因になります。
治療
原因となる便秘や下痢を防ぎ、裂肛が治癒しやすい環境を整える保存療法が基本となります。慢性裂肛まで進行し、肛門ポリープや見張りイボができてしまった場合や、肛門が狭くなってしまった場合には手術を行います。手術を必要とするのは、裂肛の患者さん全体の1〜2割程度と考えられます。
保存療法
食生活や排便習慣などのライフスタイルを改善して、症状を悪化させないようにする保存療法(生活療法)が中心です。裂肛の患者さんは、痛みや合併する皮垂(皮膚のたるみ)などで肛門の衛生を保てない方が多いため、排便後はウォッシュレットやシャワー、座浴などでの洗浄を行い、トイレットペーパーなどで強く拭くことは避けます。また、便秘や下痢を起こさないような食事習慣に注意し、整腸剤や下剤なども使用します。疼痛の緩和のため、局所麻酔薬やステロイド含有の外用軟膏も使用します。一方、括約筋弛緩薬(ニトログリセリン硝酸塩軟膏やボツリヌス毒素など)は、頭痛や低血圧、便失禁などの副作用も多く、本邦では保険適応ではないため、当クリニックでは行っておりません。
手術療法
側方内括約筋切開術(LIS: Lateral Internal Sphincterotomy)
保存的な治療を行っても、排便時の痛みがひどいときや、一度治っても再発を繰り返すことで、裂肛に肛門狭窄を伴うようになった場合は、肛門部の狭くなった部分を切開する「側方内括約筋切開術」を行います。これは肛門の周りの皮膚から、粘膜の下へとメスを挿入していき、狭くなった内括約筋の一部を切開して、肛門を拡張する手術方法です(Notaras法)。
用手肛門拡張術
肛門に指を挿入して、狭くなった肛門を広げる方法で、鈍的に括約筋を切断するようなイメージです。拡張しすぎると便失禁を引き起こしてしまうため調節が難しく、当クリニックでは基本的には行いません。
肛門形成術
裂肛が完全に慢性化し潰瘍を作り、肛門ポリープや痔核を伴い、なおかつ肛門狭窄がひどい場合には手術が必要となります。具体的には、肛門管を拡張しつつ、肛門縁外側の皮膚を肛門管に滑り込ませる「肛門形成術」と呼ばれるもので、当クリニックでは「皮膚弁移動術(SSG: Sliding Skin Graft)」もしくは「Y-V形成術」を採用しています。
まず、慢性裂肛の潰瘍や肛門ポリープ、見張りイボ、合併する痔核などの病巣を切除します。肛門狭窄を伴う硬化した括約筋が露出するので、括約筋の一部を切開して肛門を広げます。その後、創縁である肛門周囲の皮膚を引っ張って切除粘膜と横方向に縫合しますが、強い緊張がかかるため、SSGでは縫合した部分の外側に弧状に皮膚切開を、Y-V形成術ではスライドした皮膚弁に多数の横切開(浸出液のドレナージ口も兼ねる)を加えて皮膚弁を作成し、肛門管内方向へスライドさせます。皮膚弁の作成とスライドのさせ方により、「皮膚弁移動術(SSG: Sliding Skin Graft)」もしくは「Y-V形成術」を選択します。
肛門前方に「慢性裂肛(深掘れ潰瘍、肛門ポリープ、見張りイボ)」を認めます。
慢性裂肛(病巣)を切除します。
露出した括約筋の一部を切開し、狭くなった肛門を広げます。その後、肛門縁外側の皮膚を肛門管に滑り込ませる肛門形成術を行います。
創縁の肛門周囲の皮膚と肛門内の粘膜を縫合します。強い緊張がかかるため、肛門縁外側に弧状の皮膚切開もしくは皮膚弁に多数の切開(減張切開)を加えて、皮膚弁を肛門管内方向へスライドさせます。
裂肛(切れ痔)は日帰り手術が可能です。
日帰り手術のメリット
日常生活への影響を最小限に
当クリニックでは、休診日以外のほぼ毎日手術を行っていますので、患者様のご都合の良い日に合わせたスケジュールが立てられます。
日常生活のリズムを変えずに手術ができます。
負担が少なくなる
日帰り手術は術後に入院を強いられることがないため、身体的・心理的負担が少ないのも特徴のひとつです。
特にお勤め先や自営業のお仕事をなかなか長期で休めない方、育児や家事などで長期の入院が難しい方には日帰り手術のメリットは大きいです。
治療費の節約ができる
社会復帰も早く、医療費の多くを占める入院費が削減されるので、治療費が低く抑えられます。
裂肛(切れ痔)の手術の相談を予約できます。
肛門手術の治療の流れ
■初診~治療方針の決定
お電話でのお問い合わせやネット予約も受け付けております。
医師による診察と肛門鏡検査を行い、痔核(いぼ痔)、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)の診断を行います。
手術が必要かどうかについてご説明します。手術日をご相談の上、決定します。
血液検査、胸部レントゲン検査などを行い、手術や麻酔に耐えられるかどうかを調べます。
手術前日と当日の食事制限や内服薬の継続、休薬についてのご説明をします。その後、医師から手術内容の具体的なご説明の後、手術同意書にサインをして頂きます。
■手術当日
手術前
※受付後、病衣に着替えて頂きます。
※点滴を行います。
※眼鏡やコンタクトレンズ、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリー、マニキュアなどは外して頂きます。
※女性の方は、お化粧をしないで来院してください。
手術後
※バイタル測定(血圧、心拍数、経皮的酸素飽和度など)を行います。
※手術後1〜2時間くらいで水分をとったり、トイレに行ったりするのが大丈夫であることを確認します。
※手術終了後3〜4時間で、問題なければ帰宅できます。ただし、ご自身で車を運転して帰るのはお勧めしておらず自己責任となります。送迎の方のご準備やタクシー、交通機関などの方法をご検討ください。来院時のみご自身で運転して来られて、当院の駐車場(無料)に車を置いて帰宅し、後日車を取りに来られるという方法もあります。
手術当日退院後
局所麻酔が効いているため、それほど痛みは感じず歩行でき、家の中の日常生活はできます。痛みがあれば、帰宅時にお渡しした痛み止めをお使いください。手術当日はそのままシャワーを浴びることができます。当日の夕食はとって頂いても構いませんが、吐き気がある場合は無理せず水分摂取やゼリーなどにとどめてください。
肛門疾患の治療は当日の手術の内容がほぼすべてになりますので、術後に必要な処置はあまりなく、合併症が起こっていないかの確認のみとなります。遠方からの方で術後の受診が困難な方については、電話による経過確認などでも十分対応可能と考えております。また、ご希望があれば近隣の医療機関への術後確認の紹介状をお書きします。
手術後
1〜2日目
手術翌日は、個人差もありますが多少の痛みを感じます。必要に応じて痛み止めの薬をお飲みください。痛み止めを飲みながらの日常生活や軽い外出も可能ですが、遠出は避けてください。また、手術翌日から入浴をして頂いて全く問題ありません。
手術後
3〜7日目
特に排便時のお痛みが強い方がいらっしゃいます。必要に応じて痛み止めの薬をお飲みください。痛み止めを飲みながらの日常生活や軽い外出も可能ですが、遠出は避けてください。デスクワークのお仕事であれば出勤される方もいらっしゃいます。術後の痛みの程度や遠方かにもよりますが、手術後1週間以内での外来受診をおすすめしております。お傷の状況や痛みの程度の確認をします。
手術後
1週間〜10日
この時期に非常にまれですが、後出血(急に大量の出血を起こすこと)を起こす方がいらっしゃいます。自然に止まらない場合はクリニックに御連絡ください。
手術後
約2週間
お痛みがほぼなくなる方がほとんどです。
手術後
約1.5〜2ヵ月
術後1.5〜2ヵ月たつとお傷がほぼ完治となる方が多いです(個人差があります)痔瘻の場合は手術内容にもよりますが、3〜6ヵ月程度かかる場合もあります。
※手術後の経過には個人差があります。必ずしも上記のとおりに経過することを保証するものではありませんので、あらかじめご了承頂けます様、お願い致します。
日帰り手術Q&A
裂肛(切れ痔)の手術の相談を予約できます。